第15回 講師:須谷柚貴さん(53期生)航空業界への招待 =意外と知らないグランドハンドリング=

日 時 2024年5月21日(火) 19時~
テーマ 航空業界への招待 =意外と知らないグランドハンドリング=
講 師 須谷柚貴(53期生)日本航空株式会社

<講義概要(講師より)>
 城南高校在学中は鉄道がメインの趣味であり、航空業界には見向きもしなかった。しかし、大学に進み、日本航空株式会社主催の課外講座を受講し、福岡空港でアルバイトを行ったことで、航空業界へ進むことを決意した。
 新卒時代は別会社に入社し、羽田空港で勤務していたが、現在は株式会社JALグランドサービスに転職し成田空港で勤務している。
 航空業界といえば、パイロットやキャビンアテンダント、航空管制官のイメージが強いだろう。実際、大学生向けに行われたある調査では、就職先として特に女子学生から根強い人気を集めている。
 一方で、航空業界はイベントリスクに弱いという指摘もある。2020年に世界を襲った新型コロナウイルスはその最たる例と言えよう。移動需要が蒸発したことで各社は経験したことのない苦境に陥り、その名が消えた航空会社もあった。この期間に何があったのか、いかにして立ち直ったのかについては、状況を時々刻々と記した書籍があるので、そちらを参照されたい。(『ANA苦闘の1000日』日経BP, 高尾泰明著[2022])
 
 本題のグランドハンドリングの話に移る。グランドハンドリング、略してグラハンとは、航空機の運航に欠かせない地上支援業務のことである。パイロットやキャビンアテンダントの力だけでは飛行機を飛ばすことは不可能であり、彼らの力が必要になる。
 グラハンにも種類があり、航空機に積み込むコンテナの搭載・降載や搬送、飛行機への給油、機内食や機内用品の搭載、航空貨物の処理、広義ではさらにチェックインカウンターやゲートでの改札業務も含まれる。
 講義中盤では、グラハンの作業風景を収録した映像が放映された。飛行機が着陸すると、機体はそのまま管制塔から指定された駐機場(スポット)まで向かう。翼端監視員や誘導員(マーシャラー)に導かれ、スポットに入る(スポットイン)。飛行機は、エンジンを止めた後に作業員により車輪止め(チョーク)が掛けられる。その後、様々な特殊車両(GSE; Ground Support Equipment)が装着され、お客さまの降機や航空貨物の取り降ろしが始まる。同時に、機内用品の処理や折り返しに向けた点検、機内清掃が行われる。

ところで、私たちは飛行機に搭乗する際に手荷物を預けるだろう。しかし、その手荷物がどうなるのかを想像したことはあるだろうか。それらはベルトコンベヤを流れながら検査を受け、出発手荷物荷捌き場(ソーティングエリア)に落とされる。
 お客さまからお預かりした手荷物を、行先便別に仕分け、指定されたコンテナに積み込んでいく。ファーストクラスやビジネスクラスをご利用のお客さま、マイレージプログラム会員のお客さま、ペットや楽器等特別な手荷物を預けられるお客さま、乗り継ぎ時間が短いお客さまなど、属性に合わせて手荷物の取り扱いに工夫を加えている。私の所属する手荷物サービス部では、日々大量の手荷物との格闘が繰り広げられる。
 こうして出来上がった手荷物のコンテナは、出発貨物を積んだコンテナとともに、飛行機の貨物室に入れられる。ペットその他特殊な手荷物は、コンテナを搬入する貨物室とは別に、バルク貨物室という場所に入れられる。お客さまのご搭乗が完了すると、搭乗橋(PBB; Passenger Boarding Bridge)やチョークが外される。同時に、プッシュバックタグが飛行機の前輪に連結される。飛行機は自力でバックすることができないため、プッシュバックタグによって押し出してもらう(プッシュバック)。こうした作業は時間との戦いであり、特に国内線では1時間にも満たない早さで完了させる。

現在、航空業界は深刻な人手不足に陥っている。プッシュバックやスポットインは自動化が進んでいるが、出発/到着手荷物の荷捌きやコンテナの搬送等にはまだ人の手による作業を必要とする。また、2030年を前にして、成田空港では新滑走路の整備やワン・ターミナル化計画などにより、さらに3万人の従業員が必要になると試算され、各社は採用強化や待遇改善に力を入れている。講義後に行われた懇親会では、そうした各社の取り組みや、私が勤めるJALグループの福利厚生などに対して、話す機会に恵まれた。
以上