日 時 10月15日(火) 19時~
テーマ 国際経済戦争ウラ話=国際税務の実務回想録=
講 師 池本守正 (6期生)元富士通(株)国際税務担当
<概要>
中学生までは野球少年で巨人ライオンズファン、城南高校卒業後は早稲田大学で会計学と英会話(ESS)を学び、同大学院を経て株式会社富士通へ入社。主に経理・監査業務に従事し、公認内部監査人(CIA)、内部監査士(QIA)等の資格を取得、国際関係税務に精通した社員が少なかったこともあり、会計学と英語力との親和性から内部統制を含む国際課税と監査関連業務を担当し、その期間には組織再編税制やM&Aを担当した。
半導体メーカー(当時)として諸外国企業と取引をする場合のスキームとしては、日本の製造会社から相手国にある現地子会社と売買取引(A売買)をした上で、現地子会社が現地で販売を行う(B売買)、という流れがある。
このとき、日本から現地子会社へ製造物を売るA売買では、価格が安ければ関税(税額)は安くなり、逆に高ければ関税(税額)も高くなる。
一方、現地子会社が一定の販売価格で現地販売をする場合には、A売買で安く仕入れたときには多くの利益が生じ、B売買で高く仕入れたときには、その利益は少なくなる。
一般的に日本でも諸外国でも、現地子会社の利益は現地国に対して納税するが、法人税率は国によって異なるため、どの国に現地子会社があるかによって現地子会社の負担税額も異なってくる、つまり製造物輸出会社と現地子会社の取引価格の操作によって現地国の税収額が異なってくるという問題が生じるのである。
このような国際税務の視点からの不公平を是正するため、国際間の取引価格については、(1)本来あるべき価格よりも安い価格での輸入に対して輸入国が課税できる「ダンピング関税」制度と、(2)海外への所得移転や租税回避の防止を主たる目的とされる、あるべき価格よりも高い価格での輸入に対して課税する「移転価格税制」、の二つの制度により調整がなされている。ある取引に対して利益操作等が疑われた場合には、この課税手法が適用される可能性がある。その為、これらの税制を適用される可能性を常に考慮し、輸入国においては関税又は法人所得税を適正に納付する輸出実務を心がける必要がある。
この二つの税制は適正に運用されないといけないが、課税実務が成熟していない時期においては、必ずしも公平な課税実務が適正に行われていたわけではなかった。
例えば、二国間の一方の国際情勢や政治的競争関係等に多くの影響を受ける場合もあるため、現実を把握し、国際間の制度を適正に適用しながら、確実に解決していくことが求められる。
近年では、世界規模でのデカップリング(分断)が進展し、地球規模での市場経済圏の分離がみられ、国連の機能不全も目立ち始めた。
効率化を求めるが故の利益至上主義が金余りの時代を招き、投資家中心の経済運営となり、持たざる国と持てる国の対立が深まる。金融中心の政治・経済はこれからも続くが、国際間の軋轢は止まらないのではないかとも思える。利益至上主義からの脱却が必要なのではないか、と述べられた。
また、国家の利害を超えた国際間の利害調整の実務については、今回の講義用にまとめた国際課税の事案を振り返り、改めて考えて行くべきではないか、と述べられた。 以上