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第33回 講師:川瀬 卓さん(34期生)うつりゆく日本語=ことばはなぜ変化するのか?=

日 時 2026年3月17日(火)19時~
テーマ うつりゆく日本語=ことばはなぜ変化するのか?=
講 師 川瀬 卓さん(34期生)白百合女子大学 文学部 教授

<概要>
 今回は、34期生で白百合女子大学文学部教授の川瀬卓氏を講師に迎え、「うつりゆく日本語」をテーマに講義が行われた。日本語学、とりわけ文法史や対人配慮表現を専門とする立場から、言語はなぜ変化するのかという問いについて、発音・文法・敬語表現の三つの側面から解説された。

 講義の冒頭では、言語変化は偶然ではなく、一定の規則性や体系性を持って生じるものであることが示された。その背景には、人間がより発音しやすくしようとする傾向、似た形にそろえようとする傾向、さらには対人関係を調整しようとする働きがあると整理された。

 発音の変化では、ハ行音が歴史的に「パ」行から「ファ」行を経て現在の「ハ」行へと変遷してきた可能性が示され、キリシタン資料や江戸時代の仮名遣い書、方言の比較など複数の証拠から復元される言語史の面白さが紹介された。鹿児島県喜界島などに残る古い発音の痕跡にも触れられ、言語変化が地域により異なる速度で進むことが具体的に示された。

 続いて文法の変化として、「ら抜き言葉」が取り上げられた。これは単なる誤用ではなく、「書く→書ける」「読む→読める」といった規則に合わせて「見る→見れる」と類推したもので、人間による、言語使用の均一化への欲求に基づく自然な変化であると説明された。九州方言の例や、子どもが言葉を身につける過程で「死まない」といった表現を一時的に用いることがある現象も、限られた言語データから規則を広げて適用する過程として位置づけられ、言語変化が人間の認知的特性を基盤として生じることが明らかにされた。

 さらに敬語・配慮表現の変化では、「どうぞ」と「どうか」の使い分けに注目し、明治以降、相手に利益のある場面と懇願的表現とで役割が分化していった過程が示された。身分秩序を基盤とした社会から、場面ごとの関係性や心理的配慮を重視する社会への移行に伴い、言語もまた変化してきたことが指摘され、「教えてくださりありがとうございます」の「てくださる」のように恩恵関係を明示する表現の重要性にも言及された。

 質疑応答では、古代日本語の発音復元の方法や、どの時代の日本語が現代と通じるのかといった問いが取り上げられた。講師は、文法的には江戸時代に入る頃には近似性が見られる一方で、語彙や社会制度の違いにより単純には比較できないと説明した。音声記録が存在しない時代の言語も、文献資料や周辺言語との比較により一定程度推定可能である点が紹介され、言語研究の奥深さが伝えられた。

 講義を通じて、言語は固定されたものではなく、人が使い続けることによって変化し続ける存在であることが改めて示された。日常的に何気なく使っている日本語の背後にある仕組みと歴史に目を向ける契機となる、知的刺激に富んだ一夜となった。